名画座のように…

映画素人による備忘録的ブログ

第四回「酒とバラの日々」

第四回レビュー「酒とバラの日々

1962(米)

監督 ブレイク・エドワーズ

音楽 ヘンリー・マンシーニ

出演 ジャック・レモン
   リー・レミック

 

*******ネタバレ注意*******

 

 

 

 

 

 題名の心地よさにだまされるなかれ。中々ヘビーな作品。ジャック・レモン演じるジョーは、仕事柄、接待的な場で飲む。仕事上の不満から飲む。と、ストーリー当初から飲み続けている。


 出会った女性がリー・レミック演じるカーステン。ジョーはアラビアの石油会社との接待の為に、セミプロ的な女性を見繕っては連れて行く、というような仕事を当初していて、そういう女性と、秘書として働いているカーステンを間違えるという失態を犯す。それを謝りにいって、食事を誘ったのが縁で二人は付き合うことになる。

 チョコが大好き、お酒は一滴も飲まないカーステン。初めての食事で、ジョーは彼女に「アレキサンダー」を飲ませる。

 

 アレキサンダー(ブランデー・ベース)
   ブランデー      30ml
   生クリーム      15ml
   クレーム・ド・カカオ 15ml

  シェイク
  最後にナツメグを適量すりおろし、カクテルグラスで供する

 

 クレームドカカオは別名チョコレートリキュール。チョコレート好きな彼女に飲ませるにはうってつけといえる。このチョイスからもジョーがなかなかの酒飲みであることがうかがえる。


 ただし、アルコール度数は高め。なにせショート・カクテルですからね。カーステンも、潜在的には相当お酒に強い事がわかる。
 今時なら、お酒を飲んだことがないチョコレート好きな若いお嬢さんに、いきなり飲ませるようなカクテルじゃないような気がします。

 …カルーア・ミルクあたりが無難でしょうか。

 

カルーア・ミルク
   カルーア・コーヒーリキュール 30ml
   牛乳             90ml

  ビルド
  氷を入れたタンブラーにカルーア、牛乳の順で入れ、マドラーなどで混ぜて供する。比率はお好みで…

 

 

 二人は結婚し、やがて子供も出来る。子育てで留守を守るカーステン。接待などで酒を飲んで帰ってくるジョー。いい気持ちで帰ってくるジョーと、素面で帰りを待つカーステン。素面と飲んだくれの温度差が、ジョーには気に入らない。かわいい奥さんを子供にとられる…妻は私のものでもあるのに…という感情もあり、楽しくやろうと彼女にも飲酒を勧める。


 最初は母乳に悪影響が、とか渋っていたのに。しばらく先のシーンでは二人で飲酒。三本あったはずのストックの酒が、一本減ってる…変だな…というような空恐ろしい表現で酒に溺れていく彼女を描く。

 

 最初の出会いの時初めて飲んだ、思い出の「アレキサンダー」ですが、悲しいかな、この後のストーリーではほとんど出てこない。なにが悲しいかといえば、二人はこの後どちらもアルコール依存症になってゆくのですが、そうなってくると、カクテルなんて作ってじっくり味わうとか、かったるくなるのでしょう。ウイスキーとかジンとかをストレートで…そんなシーンばかり…

 

 まぁジョーのほうは、初デートのときから、ウイスキーのポケット瓶をやってたから、最初からかなりヤバイのですが…。

 

 だがある時、ジョーは鏡に映った自らを見て、なんて酷い姿だと悟る。ここ数年で何度も仕事を変えざるを得ないのは、仕事が出来ないとかそういうことではなくて、酒のせいだと突然気づく。

 

 二人で酒をやめようと決心し、田舎にあるカーステンの父親のところに住むことにする。最初の何ヶ月かは酒を一滴も飲まず、園芸の仕事に精を出す。
 二人は立ち直ったかにみえたが、仕事が軌道に乗ってきたある日、ジョーはこっそり、部屋に酒瓶を持ち込み、彼女と飲酒してしまう。

 

 一杯だけ…少しだけ、楽しむだけだ…これが一杯では止まらないのがアルコール依存症の怖さ。

 

 ふたりはいい気分で酔っ払う…お酒を飲んでいる時の二人は、素面の時よりも幸せそうに見えるのが何より恐ろしい。それも人生の真実ではあるのだろうけど…。

 

 酒が切れ、園芸室に隠している酒瓶を取りに行くジョー。だが隠している場所を忘れ、あせって植物の鉢を壊しまくるジョー。

 

 結局彼は入院し、「AA」(アルコホーリック・アノニマス)に入る。
 吾妻ひでおさんの「失踪日記」に出てきたあれですね。アルコール依存症の方たちが共に立ち直るための互助会的組織。

 

 自分はアルコール依存症だと認め、その体験を皆の前で話す。この、自ら認める、というのがなにより大事なのでしょう。

 

 おかげでジョーは、酒なしの生活に戻ることが出来た。カーステンにもこの会に出るように勧めるが、彼女は自分がアルコール依存症である事を認めようとはしない。

 

 酒を飲むものと飲まないもの。ここにまた溝が出来る悲しさよ。カーステンは家を空けるようになり、数日間失踪。その後、モーテルで飲んだくれているとの連絡が来る。

 

 ジョーはカーステンを迎えに行くのだが、彼女は帰らない。素面の彼と酒の入っている彼女は決して通じ合わない。最初、酒を飲まない彼女にアレキサンダーを勧めたのは彼だったが、いつの間にか立場が逆転している。

 

 カーステンの寂しさ、溝を取り払うには、彼も飲酒するしかなかった…

 

 結局ジョーはまた正体不明になるまで飲み、モーテル内の酒屋を襲い、酒を強奪しようとする。

 

 次のシーンでは、ベッドに両手両足拘束されているジョーのシーン。ずっとお酒を断っても、ちょっとした事で再び飲むと、止まらなくなり元に戻る…この辺が実にリアル。

 

 結局この後二人は別居。娘と二人で暮らすジョー。

 

 ラストシーン…ジョーのもとにカーステンがやってきて、また幸せに暮らしたいというが、酒抜きで、というジョーの固い決心に、悲しそうに出てゆく…

 

 

 窓からカーステンの後姿を眺めるジョー。彼女の向かう先はバーであった。

 

 アルコール依存症の恐ろしさを描いた作品。私は弱い人間であるから、相手が求めるのなら、私も飲むな、と、思ってこの映画を観てしまったりした。

 

 共に堕ちるなら…

 

 いや、わかってます。その感情がなにより恐ろしい。アルコール依存症に苦しむ方やそのご家族が大勢いる事もわかっています。この映画リアルすぎですしね…

 

 作り手が、最初からアルコール依存症の怖さを描きたかったのか、それとも二人の男女のすれ違いを描きたかったのかによって、この映画の評価は変わりますね。もし後者なら、設定は別の何かにしないと…いくらなんでもこの設定は重すぎる。脚本を書く過程で、色々調べてリアルになった結果重くなったのだろうか…。

 

 アルコール依存症はれっきとした病気で、それ故に心が通い合わなくなった二人の悲しい物語…


 お酒は出来れば、ほどほどに…